平成30年税制改正 恒久的施設(PE)の定義の見直し その1

平成30年の税制改正で恒久的施設(PE)の定義が見直されました。

そこで、PEについて数回に分けてコメントさせていただきます。

 

 

国際税務に携わる者が初期の段階で覚えるフレーズに、「PEなければ課税なし」があります。

 

PEとはPermanent Establishmentのことです。日本語では恒久的施設と訳されていますが、またこの日本語のイメージの湧きづらいこと。。。

この「PEなければ課税なし」とは、どのような意味なのでしょうか。

 

よく次のように説明されます。

“外国企業が日本国内で事業を行う場合、日本国内にその企業の恒久的施設(PE)がなければ、その企業の事業所得は日本で課税されない。”

 

かみ砕いていうと、外国企業は日本国内に支店や拠点を設置し、それらを通して営業等を行なわなければ、日本で申告納付の義務はないということです。

例えば、日本に支店等を有しないドイツ企業が、ドイツから日本の顧客に営業をして稼得した収益は、ドイツで法人税を納付すればOKということです。

 

細かくは各国との租税条約をチェックする必要がありますが、まずは上記のイメージでいいと思います。

 

このときに問題になるのが、どの程度の行為をするとPEとなるのか?です。

PEの範囲については、国内法、租税条約、そしてOECDモデル条約に規定されていますが、今回の税制改正で、国内法のこの部分が改正になりました。

 

国内法では、PEは次の3つに区分されますが、その内容がそれぞれ改正されています。

  1. 支店PE
  2. 支店、出張所、事業所、事務所、工場、倉庫業者の倉庫および鉱山・採石場等天然資源を採取する場所など。
  3. 建設PE
  4. 建設、据付け、組立て等の作業、またはその指揮監督の役務の提供を1年を超えて行う場合のその場所。
  5. 代理人PE
  6. 国内に自己のためにその事業に関し契約を結ぶ権限のある者で、これを常習的に行使する者や、商品等の資産を保管し顧客への引き渡しを行う者、あるいは注文の取得等の重要な部分をする者。

 

改正の内容については、次回以降掲載させていただきます。

まずは、3.代理人PEについて説明させていただきます。

バイAPAにも動きが…

国税庁「移転価格事務運営要領」の一部改正を2月23日に公表しました。

内容は、相互協議を伴う事前確認について、国外関連者が所在する国等の税務当局で事前確認の申出が収受されず3年を経過した場合、

①事前確認の申出の取下げを行う

または

②相互協議を伴わない事前確認に変更するかの聴取が行われる

というものです。

 

この改正は、中国やインドネシアなどのOECD非加盟国の新興国が相手国の場合のバイラテラルAPAに対して次の現状が生じていることに対しての改正だと思われます。

  • 国税庁                                  1)中国等の新興国とのバイラテラルAPAが遅々として進まず、繰越件数が積み   あがってしまっている。                         2)事前確認制度について、将来年度における移転価格税制の適用に係る法人の予測可能性の確保等が目的であるとしたうえで「専ら相互協議の相手国の事情により事前確認の手続きが確定しない状況を無制限に放置することは、事前確認の趣旨に反するものと考える」としている。
  • 確認申出法人(納税者)                          確認対象事業年度は移転価格調査を行わないこととされている(指針3-22(3))ことを利用して「とりあえずバイラテラルAPAを申請して調査を回避しよう」という思惑を有する納税者が出てきたこと。

改正では、バイAPAの申出について、国外関連者が所在する国又は地域の税務当局に対し行った申出が“収受されていないもの”と認められ、かつ、“確認対象事業年度(事前確認を受けようとする事業年度)のうち最初の事業年度の開始の日の翌日から3年を経過”した場合には,確認申出法人(納税者)から①事前確認の申出を取り下げるか否か、②相互協議を伴わない事前確認(ユニラテラルAPA)を求めるか否かを聴取するとしました(指針6-15(2)ロ)。

 

納税者としては、次のような選択肢になるのではないでしょうか。

  • 日本側で移転価格リスクがある場合(国外関連者の利益率が高くなっているような場合)
   →ユニラテラルAPAに切り替えて国税当局の審査を受ける。
  • 国外関連者側に移転価格リスクがある場合(国外関連者の利益率が高くなっているような場合
   →日本側で取り下げ、相手国側で国外関連者が現地当局にユニラテラルAPAを申 
    請。
    
   しかし、そもそも相手国(中国等)側の審査が進まなかったので、3年を経過 
   することになってしまっているので、ユニラテラルAPAに切り替えたところで  
   解決しないリスクが想定されますよね。

 

一方で、最近の中国当局はバイラテラルAPAに対してポジティブな姿勢をみせているということも聞こえてきますので、3年以内にバイラテラルAPAが終了するようになってくるのではないかと期待しています。

 

移転価格にとっての2018年3月31日

3月決算法人はもうすぐ年度末ですね。

年度末に向けて営業の方は最後の追い込みの真っ最中ではないかと思います。

経理も決算に向けて準備を進めていることと思います。

さて、決算に向けての準備というところでは、税務担当者も忙しい日が続いていると思いますが、この3月末は特に移転価格担当者にとっては大きなイベントが待ち構えています。

 

それは、3月決算法人は、マスターファイル(事業概況報告事項)とCbCR(国別報告事項)の最初の提出期限を迎えるからです。

平成28年の税制改正で、移転価格文書化制度に関する改正が明らかになりました。

www.nta.go.jp/shiraberu/ippanjoho/pamph/pdf/h28iten-kakaku.pdf

OECDがBEPS行動計画13の最終報告を提出したのが2014年でした。大手日系企業の一部はすでにその頃から対応を検討していましたので、3年越しの対応をしていたことになります。

 

実際は、日本よりも早く、インドネシアが2016年12月31日付で財務省規定第213号(PMK-213)を定め、期末以降、4か月内に移転価格文 書を準備しなければならないこととしましたので、日系企業インドネシアに子会社を有するグループは2017年7月にはマスターファイルを作成しておく必要がありました。

インドネシアに子会社を有する日系企業は多くありますので、その時に作りこんだ企業は、データのアップデートのみで対応できているのかもしれませんね。

 

すでにe-Taxで送信まで終わらせた担当者もいらっしゃるかと思いますが、こののち、情報交換規定に基づき、マスターファイル・CbCRは各国税務当局と情報共有されることになります。そして、各国の税務当局はこれらの文書に基づき海外子会社の税務調査を行う可能性があります。

そういう意味では、グローバルの税務管理は第2フェーズに入ったと言えます。グローバルで税務をどうコントロールしていくか、それは文書を作成するよりも大きな課題ではないでしょうか。

自己紹介

はじめまして。

国際税務のアドバイザリーをメインとする税理士です。

これまで、企業の税務部門で、移転価格をはじめとする国際税務、組織再編、連結納税、国税局調査対応を経験しました。

 

本社での税務部門だけでなく、子会社(日本、ドイツ)に出向して経営管理・経営企画も担当しました。この時の経験を通して、「まずビジネスがあって税務がある」という視点で税務を捉えるようになりました。

そのため、まずビジネスを知ってから税務を考えることを信条としています。

 

経営管理・経営企画部門は、経営視点での対応が要求されますので、「自分が経営者ならこうする」という考え方が身に付きました。

おかげさまで、現在クライアントから承る相談は税務50%、経営50%です。

 

また、税理士になる前に、銀行で融資を担当しておりましたので、クライアントの資金調達のための事業計画作成、金融機関との交渉にも対応しています。

 

このブログでは主に国際税務のことを書いていこうかと思います。

特に、企業の税務部門で働く方からコメントいただけるとうれしいです。

移転価格は税務なのか?

ほとんどの企業では、移転価格担当者は、税務または経理に所属しています。

なぜなら、「移転価格」は移転価格税制として税法に規定されているから。

でも、多くの担当者の本音は「これって税務じゃない!」ではないでしょうか。

 

理由は、ビジネス全体を理解していないと全く判断できないし、とにかく社内、場合によってはグループ全体を巻き込んでの調整が多いからではないかと思います。

例えば、TNMMで算定した営業利益率のレンジに収まらないとき、次の点に注意して対応を考えます。

  1. 商流を変える必要はないか
  2. 海外子会社の機能を変える必要はないか
  3. 知的財産の帰属はこのままでいいのか
  4. ロイヤリティは徴収できているか
  5. インコタームズを変える必要はないか、など。。。

商流や海外子会社の機能を変えるとなると、海外子会社の合意はもちろん、当該子会社を管掌するカンパニーや事業部の合意が必要です。

そして、物流のシステム変更などを行うため、物流部門にも話を通さなければなりません。

さらに、知的財産が関係すると知財部や法務部とも協議しておく必要があります。

 

これらの中で、一番高いハードルは海外子会社のマネジメントとの合意ではないでしょうか。

現地採用のマネジメントは、業績によって自分の報酬が変動しますので、移転価格が業績を左右するのは切実な問題です。

確かに、当事者からすると、自分の関係ないところで業績が調整されるのは納得できないですよね。。。。

 

それでも、そんな関係各所に何とか理解していただいて、はじめて移転価格問題は一歩前進するのです。

 

確かに、国税調査も、税制改正も、全社的に動いてもらいます。

でも、移転価格は、下手すればグループのビジネス全体を抜本的に見直さなければならなくなるくらいのインパクトをはらんでいるので、周囲の巻き込み方が桁違いなのです。

 

なので、移転価格はビジネスそのものではないかと私は考えています。

当事者の皆さんはどのようにお考えでしょうか?